姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―

ひらりと床に落ちているまーくんの習字作品を拾い上げ、改めて見てみる。

(“浜辺”、ね。)

さらりと流れるような字体に、静かな波の揺らめきを感じる。
浜辺にいたのなんて売り上げバトル中のあの時と、花火をした時くらいだと思うんだけど…さてこれはどっちを切り取ったんだろう?

そう思ったら、悪戯心がまた湧き上がってきてしまった。

「まーくんの思い出はどっちかって言うと、“水着”とかの方が良かったんじゃない〜?」

笑いながら爽やかに言い放つと、喧嘩がピタリと止んで時も止まる。
ひーちゃんが「なんで?」とでも言いたげに首を傾げる横で、俺の意図を察したまーくんが顔を赤くして目を見開いた。

「水着ぃ?何変なこと言ってんの」
「うるせぇ聖!お前は何書いたんだよ!!」

解答を許さないとでも言うようにひーちゃんの言葉に被せてまーくんが割り込んできた。

(あー面白い、最高。)

心からニコニコしながら、これで意地悪はやめてあげることにして俺の作品を2人に披露した。

“花火”
2人と違って教科書通りの無個性な楷書体。
海も夏祭りも楽しい思い出ではあったけど、心動くほどのって言われると別にそうでもないのが表れているかのようだ。

「シンプル。安直。単純バカ。」

「姫よりはマシだけどな。」

「なんだとぅ!?」

再び取っ組み合い始めた2人を見ながら緩やかに笑う。
ちょっと自嘲した気持ちになりながら。

「涼介、お前のは?」

喧嘩が一段落ついたところで、ついに涼ちゃんがまーくんに見つかってしまった。
でも若干見つけるのが遅かったようで、涼ちゃんの作品はすでに提出してしまったらしい。

まーくんがつまらなそうにしている横で、未だまーくんを睨んでいるひーちゃんを何を考えているのかわからない鋭く静かな目が見ている。