信じらんない。
私が、この私が勇気を振りしぼって言ったお礼を聞き逃すなんて!
「なんて奴!」
「お前がな。」
近江涼介は嘲る様に鼻で笑う。
前言撤回!
やっぱり、こいつはヤな奴だ。
「別に、礼を言われる様な事してない。」
「え…。」
ちゃんと聞いてたの?どっち?
すでに奴の視線の先は本。
……掴みどころ皆無だな。
思考も感情も何も読めない、不自然なほど真っ直ぐ艶やかな黒髪が隠す後ろ頭をじっと見つめる。
失礼で無礼でヤな奴だけど、まぁ悪い奴ではない気がした。
「そう言えば、なんで私があそこで揉めてるってわかったの?」
疑問だった。だってあそこはここの次位に人の通らない場所だから。
それとも、奴らには少女漫画のヒーロー的直感が搭載されてたりするとか?
「紙が落ちてたんだよね~、涼ちゃん?」
いつのまにやらこっちに移動していた榛名聖が私の肩を抱いて、ぐしゃぐしゃになった紙切れを目の前で靡かせる。
「あ…それ!」
慌ててポケットの中を確認。
やっぱり、無い。



