姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―


“祝・倉敷グループ創業15年周年”の看板。
豪華で煌びやかな大広間。

学校では賑やかにしているクラスメイト達も、綺麗に着飾って親の後をついて歩けばまるで別人。

僕も例外なくその1人なんだけど。

父親の後をついて回り、薄っぺらい社交辞令に会釈するのを繰り返す。
母親はクラスメイトの母親達と何が面白いのか、高らかに笑いながら談笑している。

僕は良家と縁を繋ぐただのパイプ。
特に今日は――広瀬と繋がるための、重要なパイプだ。

(本当に身勝手で都合のいい親。)

そうやって恨みがましく思うのに、拒否しない、できない僕も僕なんだけど。

「広瀬さん、ご無沙汰してます。」

父が明るく手を挙げると、この中でも質の良さが分かるスーツを着たおじさんがやってきた。

吊り上がった鋭い眼光。深く刻まれた皺。
口元は笑っているから、怒っているわけではなさそうだ。

「倉敷の2番目のお嬢さんが四男の同級生でしてね。
あぁ、紹介が遅れました。息子の聖です。」

背中を押され、進まない足を無理やり前進させられた。
――目の前に来ると、迫力が増して怖い。

「榛名聖、です……。10歳です。」

「私の息子と同い年だね。
真、お前も挨拶しなさい。」

刺す様な目が、彼の後ろに控えた着物が似合う綺麗な女性に向かう。
すると、背後から小さな男の子が顔を出した。


「広瀬真……です。
よろしく……。」


色白に坊ちゃんヘアの黒髪、女の子みたいな大きな猫目、細い体。

オドオドとした“広瀬”らしくない態度。


――本当に同い年?


「真、挨拶くらいちゃんとしろ。
それでも広瀬家の長男か。」

胸とお腹に響いてズッシリ刺さるような、そんな静かな声だった。
僕に向かって言われたわけじゃないのに、ごくりと唾を飲み込んだ。


“ガッカリだ”

――とでも言いたげに広瀬の父は、我が子に向かって溜息を吐く。

すると“真”は怯え切った顔をしてすぐに母親の影に隠れようとする。


「真。しゃんとなさい。」

だけど彼女はそれを許さない。
凛とした顔で“真”の背中を強く前に押し出した。


――黒い水面に、一滴の白が落ちる。
そわりと胸が動く音がした。


「――ねぇ、真くん。外で僕とお話ししない?」

もしかしたら。

この子は僕と“同じ”かもしれない。