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「広瀬真!ちょっと待って!」
廊下を全速力で走ったら、階段を降りたところで追いついた。
広瀬真は進路に立ち塞がって切れた息を整える私をしばらく見た後、気まずそうにそっぽを向いた。
「……わりーけど、今話す気ねぇから。」
あ、でも、少しは話ができそうだ。
見えた隙に入り込む様に屈んで、間近に不機嫌な顔を覗く。
広瀬真の吊り上がった目が丸くなって、突っ張った肩がピクンと揺れた。
「……今回だけは榛名聖が悪いわよね!
なーんであんな風に突っかかってきたんだか。
坊ちゃんズ同士、仲良くしなさいよって感じ。」
「まぁ、聖には昔から嫌われてたし。
むしろ今まで一緒にいたことの方が不自然だったのかもな。」
「えっそうなの?」
意外な事実にびっくりして、素っ頓狂な声が出た。
「俺と聖は社交場でガキの頃からしょっちゅう顔合わせてんだよ。
アイツは俺を“顔見知り程度”って言ってたけど、
俺にとっちゃアイツは幼馴染みたいなもん。」
――3人のこと、私は何も知らないな。
「小学生くらいの頃は仲良くやってたんだよ。
なのに突然、形式的な挨拶以外全部無視されるようになった。」
話の展開が急カーブすぎて、頭の中が疑問符だらけになってしまった。
「榛名聖はサイコパスか何かなの?
それともどっかで中身が別人になったとか?」
「なわけねーだろ。ただ俺も理由はわからねー。
そのクセ高校に入学した後、何事もなかったかのようにふざけた態度で話しかけてくるしな。」
広瀬真は気怠く息を吐く。
「――つまりアイツの考えてることはわからん!
今回のことも意図は知らねーけど、俺が1番ムカつくこと言ったのを撤回するまでは許さねぇ。」
結局喧嘩はまだ続くってこと?
「まぁ、その内元に戻っから気にすんなよ、な!」
頭を抱える私の両頬を、不意に広瀬真が軽く抓って引き伸ばす。
「痛っひゃ!なにふんの!」
「おー、ブスがよりブスになったな!」
「なんれすってぇ!?」
お返しに意地悪く笑う広瀬真の頬も力一杯引っ張ってやった。
気付けば空気は完全に和らいで、いつものやりとりができることにちょっとだけホッとした。



