「それで?当然アンタはやり返したんでしょうね?」
「やり返すのが当たり前みたいに言うなよな。」
真顔で言った私に、広瀬真も流石にドン引したような顔をする。
そのおかげか、かなり空気が緩んで「やれ!」「やらねー」といつものような終わらない言い合いができるくらいにはなった。
“一件落着”とばかりに近江涼介の視線が本に戻っていく。
――なのに、榛名聖が墨を落とす。
あのどこか怖い、口元だけの笑顔で。
「まーくんは“だいじだいじ”にされてるからね〜。
……跡取りとして。」
キン、と一瞬で空気が張り詰める。
広瀬真の目が、再び鋭く光った。
「――俺はそれが嫌なんだよ。」
初めて聞いた低い声。思わずびくりと肩に力が入った。
「バカにしてんじゃねぇぞ。
“自由がある”聖に、俺の気持ちがわかるわけねぇのに。」
その瞬間、榛名聖の笑みが深まる。
同時に柔和に歪んだ目の影も一層濃くなった。
「まーくんこそ俺の何を知ってるの〜?
……お父様とお母様に大事に守られてる“跡取り様”にさぁ。」
ダン!と床を強く踏みつけた広瀬真の靴音が空気を震わす。
――そして、誰にも一瞥もくれず荒々しく教室を出て行ってしまった。



