姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―


***

「なかなかやるな、次!」が延々と繰り返されているのを、涼介と渉はマンションの窓から見ていた。


「……なんで俺だけ残したんですか?」

しばらく外の喧騒を眺めた後、渉がレースカーテンをそっと閉める。

涼介は何を思っているのかわからない無表情ながらも、相変わらず最低限の礼儀をもって対峙している。


「危ない奴はバラして1人ずつやっつけた方がいい……っていうのは冗談で。

君の名前を姫から聞いたことがあったからちょっと話してみたいなってね。」

「はぁ……。」


“冗談”と言いつつ若干本気にも聞こえるが……
姫が何を渉に話したのかもわからないため、曖昧に頷いて話の続きを待つ。


ふと、壁際においてある棚に、写真がたくさん飾られているのが目に入った。


「小さいころから可愛いだろ?
姫が生まれた時に『可愛すぎるお姫様だ』って俺達が言ったから、“姫”って名前になったんだよね。」

渉が愛おしそうに写真の中の小さな妹を見つめ、懐かしむ様に笑う。


家族の歴史を語るように小さいころから今に至るまでの家族写真が飾られている。

そこに写る誰もが幸せそうに笑っていて、彼女が“ちゃんと”愛されて育ったことを証明しているようだった。


(――ああ、だから捻くれててもまっすぐなのか。)

不器用なくせに猪突猛進な姫の姿を思い出して、妙に納得してしまう。

と同時にふっと暗い気持ちが心を陰らせて、涼介は少し目を伏せる。

――その僅かな表情の変化に気づかない渉は、話を続けた。


「ウチって母親が……
…仕事人間で、海外とか飛び回っててほぼ家にいないの。

だから俺達が味わってきた寂しさを感じさせないようにって、姫をすごく大事にしてきた。

親がいなくても、いじめられても、俺達がいれば大丈夫って言い聞かせてさ。

……でもちょっと、過保護にしすぎたかなと思って。」


話を続けてくれて助かった。おかげで心の沼底に引っ張り込まれずに済んだ。

そう安堵しつつ、気まずそうに頬を掻いて苦笑いする渉を見る。

見れば見るほど似ていないのに、姫を思い出すのはやはり家族だからだろうか?


「大丈夫だと思います。
ひねくれてるし不器用だけど、アイツは強いので。」

その言葉に、渉は驚いたように目を見開く。
でもすぐに笑って、近江涼介の背中を叩いた。

「友達が男だったのは予想外だったけど、聞いてた通りいい奴そうでよかった!

これからもよろしく。 “友達”として。」

「……やっぱり過保護は治した方がいいと思います。」

少し痛む背中を摩りながら、近江涼介はため息をついた。


***

「じゃあな!弟子よ!また来いよ!」

「はい!あざッス!先輩!」

元気よく手を振る傑兄ちゃんと、ビシッと音がしそうなくらい礼儀正しくお辞儀をする広瀬真に、マンションから出てきた近江涼介は怪訝な顔をした。


「なんか千本ノックで友情芽生えたらしいよ~?根性好き同士気が合ったみたい。」

近江涼介に耳打ちして「俺には無理~☆」と榛名聖が気だるそうに伸びをした。

「傑兄ちゃんは私が絡まなきゃ基本誰にでも愛想いいから友達多いの。
昔から百鬼夜行みたいにうじゃうじゃ友達連れ歩いてた。」


私もそれについていったことあるけど、「“傑の付属品だから”可愛がってやる」みたいな扱いがイヤですぐ抜けた。

……なんて苦いことを思い出して顔を顰めていると、近江涼介が無言で私の髪をかき乱してきた。


「何!」

「別に。」

ああもう、完璧なセットが崩れた!

そんな風に思いながらもなんだかちょっとくすぐったくて、両手櫛で髪を直しながら顔横の髪を口元に引き寄せて顔を隠した。