「何その態度!ふざけんな!」
あ、やばい。
ぶおんと音がしそうなほど勢いよく風を切って、女は片手を高く掲げる。
予備動作から“叩かれる”って本能的に悟ってしまった。
避け……いや、壁際だしそれは無理。
手でガードしようにも、肩が痛くて上手く上がらない。
……でもこれ、アレか?
少女漫画でよく見る“叩かれる瞬間にヒーローが助けに来る”ってやつ。
でも私思うんだよね。
そんなベストタイミングで助けになんか来られるわけないって。
ヒロインが窮地に追いやられたのを知っててギリギリまで引っ張って、“かっこいい自分”を演出しようとしたんじゃないの?って。
……そんな奴のどこがいいんだか。
思考する間にも怒りのこもった手は隕石のように落ちてくる。
叩かれる覚悟を決めて、キツく目を瞑った時だった。
――湿っぽい雑木林にバッチーンと乾いた音が響き渡る。
痛……くない?
――ワケないよね!痛い痛い、もう超痛い!
どうやらヒーローは来なかったらしい。
叩かれた衝撃で体勢を崩し、どさりと尻餅をつく。
頬がジンジンと刺す様な痛みを引きずって熱を帯びている。
つい顔が歪んでしまった。
それをすぐに立て直して、下からゆらりと睨め付ける。
痛い、痛い、情けない。
だけど、絶対にコイツらのために弱ってなんかやらない。
私を叩いていくらか清々したような女共は、フンと勝ち誇った様に鼻を鳴らし私に背を向け去っていく。
屈辱に震える体を落ち着かせてから、私はようやく立ち上がった。
「――やっと静かになったか。」
ぼやけたぬるい空気に乗って、上から淡白な声が落ちてくる。
制服についた砂を払う手を止めて見上げると、2階の窓から無表情の近江涼介が私のことを見下ろしていた。


