「で、なんっでこんなことになってんだよー!!」
マンション裏の空き地の真ん中で、広瀬真はバッドを握らされている。
秋になってちょっと涼しくなったかと思いきや日があるうちはまだ暑くて、私はヘラヘラ顔の榛名聖と、空き地の隅でうんざりして立っている。
あ、榛名聖の方は何を思っているかわからないへらへら顔だけど。
「男と言えば野球だ!千本ノックだ!その性根叩きなおーす!」
広瀬真から数メートル離れたところで硬式の野球ボールを振りかざして元気よく傑兄ちゃんが叫ぶ。
私に似たその見た目でスポ根とか、ミスマッチすぎるから今すぐやめてほしい。
「お兄さん達に大事にされてたんだね〜。ひーちゃん。」
薄っぺらい笑顔を貼り付けながら、榛名聖が声をかけてきた。
「え?あぁ、そうね……?意外だった?」
中学の時とか、たまに兄ちゃん達が迎えに来て周りをざわつかせたことを思い出す。
兄弟がいたことなのか、兄のシスコンっぷりにか、どっちに驚いていたのか知らないけど。
「――いや、全然?むしろ納得。」
ふとこっちを見る榛名聖の視線にひやりとする。
さわさわと吹く風が榛名聖の光るキャラメルブラウンの髪を攫って、その表情を半分隠す。
――嫌われて、る……?
薄く笑ったままの唇。
目も穏やかに微笑んでいるけど、冷たい。
肌がピリッとして、キュッと喉が鳴る。
正体不明の静かで強い苛立ちを感じ取ってしまった。
「……あのさ、」
キィインと気持ちよく硬式ボールがバッドに当たる音が重い空気を打ち破る。
雲ひとつない秋空に、飛んでいったボールが消えてった。
「――なんで俺だけなんスか!
あと2人いたでしょう!」
広瀬真の大声が空き地内に響き渡る。
傑兄ちゃんも負けじと声を張り上げた。
「うるさーい!お前がなんか一番危ないからだ!」
「意味わかんねぇえええ!」
「ちょっと!近所迷惑だし恥ずかしいからやめてよね!」
――だからそっちに気を取られて、榛名聖の表情の意味は宙ぶらりんのままにしてしまった。



