姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―


次の日、下駄箱にはまたしても私の可愛い顔がズッタズタになった写真だけが入っていた。

ちらりとゴミ箱を見ると、中には手紙がぎっしり。
どうやらご丁寧に他の手紙は捨ててくれていたらしい。


まあ確かに、大量の手紙にコレが紛れ込んでいたらインパクト薄れるもんね。

最悪気づかないかもだし。


黒板のやつと同一人物か知らないけど――
こんな姑息な奴らのせいで広瀬真と喧嘩して無理難題やらされるハメにぃ……!

ズタズタの写真を怒りに任せてグシャリと握り潰す。


その直後にそれが自分の顔写真だったことを思い出し、慌てて手で皺を伸ばした。

***

朝のHR前の廊下はいつものように騒がしい。

廊下の両端には女共が花道を作るようにびっしりと並んで、H2Oの登校を見守っている。


そんなもの存在しないかのように(榛名聖だけはにこやかに手を振っていたけど)気怠そうに歩く3人の前に、私は仁王立ちで立ちはだかった。



「……オハヨウ!」

緊張でロボットみたいなカタコトになってしまった。

拳にも眉間にも力が入り3人を睨みつけるみたいになっている。


そんな私に榛名聖は笑顔で挨拶を返すし、近江涼介は無表情ながらも成り行きを見守っている。


今回の大本命である広瀬真はといえば、私と同じく眉間に皺を寄せてなんとも歯切れの悪そうな顔でこっちを見ていた。



(――よし、いくぞ。)

大観衆が異様な空気で見守る中、私はついに広瀬真にあの言葉を言うんだ。

「広瀬真!ちょっと話が――……」
「藤澤さん。」

私の言葉を遮った声に驚いて振り向く。

見れば、なんとなく見覚えのあるような女が2人立っている。


「今日日直でしょ?数学のプリント取りに来てって先生が呼んでたよ。」


――なんだ、見たことあると思ったらクラスメイトだったか。


途端に緊張が緩んで、場にいる誰もがぽかんとしている。

唯一顔を顰めたままの広瀬真の眉が、ピクリと動いて疑問符を浮かべた。

「…………。わかった。」


タイミング最悪。なんで今?

だけど今回ばかりは話が逸れてホッとした気もして、本来無視するところを素直に頷く。


――今日、日直だったっけ?

そんな引っ掛かりも「まぁいいか」で流して、H2Oに背を向けて数学科室へと向かった。