どうしてだろう、しえるにはもっと俺のことを見て欲しいと思う。
 俺だけを見て欲しいと思ってしまう。

 この気持ちは、本当にアイドルがファンに対して抱く気持ちなのか――?


「……本当は、引き分けじゃなかった」


 しえるがボソリとつぶやいた。


「みんなの手前ああいったけど、本当は全然引き分けなんかじゃなかったの」

「どういうことだ?」

「私、蒼真くんのことばっかり見てた! つい視線が蒼真くんのこと追いかけちゃうの」

「え……」

「私、とっくに蒼真くんのファンだよ……?」

「……っ」


 自分でも考えるより先に体が動いていた。
 気づいたらしえるのことを抱きしめていた。


「!? 蒼真くんっ!?」

「ありがとう」


 すごく嬉しい。
 思わず抱きしめてしまうくらいには、嬉しすぎた。

 でもまだ足りない。
 もっと俺だけを見て、俺だけに夢中になって欲しいと思うんだ。

 そして、俺だけにキラキラした笑顔を見せて欲しい。


「……参ったな」

「え?」


 自分がこんなに欲深い人間だったとは思わなかった。
 でも多分、こんな風に思うのは――


「! 廉からだ」


 スパイ専用のスマホが鳴り、画面にはAltair(アルタイル)と表示されていた。
 こっちのスマホということは、緊急事態か?


「もしもし……何? すぐに行く!」

「どうしたの?」

「しえる、美織がさらわれた」

「えっ!?」

「急ぐぞ!!」


 青ざめるしえるの腕をつかみ、俺たちは図書室に飛び出す。

 瞬時にスパイ・シリアスに切り替え、まずはアジトへと急いだ。