スパイ活動はあらゆる知識を必要とする。
 暗号解読の知識も身につけておいて損はない。

 仲間内の連絡にもあえて暗号を用いて、関係のない者にはわからないようにしたりするからな。


「ふうん。音楽記号を用いた暗号もあるのか」


 しえるが読んでいる本を横からのぞくと、急にしえるは慌て出す。


「ち、近いよっ!」

「ああ、すまない」


 つい面白そうだと思ってのぞき込んでしまったな。


「ねぇ蒼真くん、聞いてもいい?」

「何が?」

「どうしてスパイになったの?」

「スカウトされたからだ。天ノ川学園の理事長に」


 理事長、つまり美織の祖父は芸能界ではちょっとした大物だ。
 今まで男女問わず数々の人気アイドルを育ててきた実績がある。

 理事長が会長を兼任する俺たちの所属事務所・ミルキーウェイプロダクションはかなりの大手事務所だ。


「理事長の権力が大きいからこそ、ミルキーウェイのタレントはコネで仕事をもらってるって思われることもあるんだ」

「そんなことない。みんな自分たちの実力でしょ」

「そう思わないやつらもいるってことだ。芸能界という世界は、華やかに見えるけどさまざまな“しがらみ”があるんだよ」