アイドルの犬飼蒼真ではなく、スパイのシリウスじゃなく、ただ一人の中学生として静かに過ごしたいと思う時がある。

 最近は特に仕事が忙しくてゆっくりする暇がなかったからな。

 今後のことをどうするべきか検討するためにも、一度頭と気持ちをリフレッシュさせたい。
 だからたまに一人で図書室を訪れて、好きな小説をゆっくり読んでいる。

 メンバーも知らない、密かな趣味となっていた。


「わわっ! わーーっ!」


 どこからか突然大きな声が聞こえた。
 その直後にバサバサバサ! と何かが倒れたような音が聞こえる。

 さすがに気になってのぞいてみると、しえるが散らばった本の真ん中で尻もちをついていた。


「しえる、何してるんだ」

「あ、蒼真くん」


 俺は手を差し伸べてしえるを助け起こす。


「ありがとう」

「何か調べ物か?」

「うん、暗号の本を探してたの」

「暗号?」


 なかなか珍しい調べ物をしているんだな。

 しえるは散らばった本を片付けながら説明した。


「ハッキングってね、暗号解読と似てるんだ。だからもっと色んな暗号のパターンを知っておけば、ハッキングに役立つんじゃないかと思ったの」

「なるほどな」