この日、俺は図書室に訪れていた。
 天ノ川学園の図書室は図書館とも言えるほど大きくて広く、さまざまな本が棚の所狭しと並んでいる。


「あ、新作が出たんだな」


 俺が手に取ったのは夏目(なつめ)はゆるという作家の小説だ。
 青春系小説を中心に書いており、中学生でも読みやすい文体が魅力的だ。

 新作が入ると必ず借りて読むようにしている。


「ねぇ、こっちに蒼真くん来てなかった?」


 ――おっと、まずいな。

 俺はとっさに本棚の影に隠れる。
 ファンと思われる女子生徒たちがキョロキョロと見回している。


「いないみたいだよ」

「やっぱり気のせいかぁ」


 足音が遠ざかっていくのが聞こえた。
 なんとかバレずに済んだようだ。

 申し訳ないが、今の時間は一人にさせて欲しい。
 俺は一番奥の席に座り、小説を読み始めた。

 昔から読書が好きだった。
 物語の世界に没頭していると、現実を忘れられる。

 アイドルとしての自分もスパイとしての自分も、俺自身が望んでなったことだ。
 でも、時折息抜きしたくなる。