私はカタカタカタと高速でキーボードを叩く。
 もうキーボードを見なくても簡単に打ててしまう。


「よし、デリート完了!」

「ナイスだ、スピカ!」

「ミッションコンプリートだね」


 私とお兄ちゃんはハイタッチを交わす。


「それにしてもすごいな、しえる。あっという間に俺の技術を追い抜いたよな」

「ふふ、任せて」


 私はえへん、と胸を張る。


「スピカへの依頼、どんどん増えるぞ」

「なんでもドーンとお任せだよ。スピカに不可能はないんだから」

「ははっ、言うようになったなぁ」

「あ、でも仕事は程々にしてね。美織のコンサートに行けなくなるのは嫌だから」

「わかってるよ。ほんとに美織ちゃん大好きだな」

「当たり前でしょ」


 美織は私の大親友であり、推しなんだから。
 推しの幸せを願ってこそのファンだからね。

 そんなわけで、私には二つの秘密がある。
 人気アイドル・美織が親友だということ、天才ハッカー・スピカだということ。
 どちらの秘密も絶対に内緒だ。

 美織とお兄ちゃん以外は知らない、はずだったのに――。