あのね、先生


今日はスクールの秋イベント——
ハロウィンパーティーの日だ。


ノリの良いスクール生たちとお酒を飲みまくる
美沙さんは、すっかりハイテンション。

酔いも回ってなのか、突然手を挙げた。


「はーーーい!!みんなでジェスチャーゲームを始めたいと思いまーーーす!!!」


「「ジェスチャーゲーム!?」」


美沙さんの宣言にざわつく教室。
先生は後ろの方で足を組み、お茶を飲みながら静観モード。
参加する気はゼロといった感じだった。

皆でゲームなんて、いつぶりだろうか。
なんだか急に学生に戻ったような気分。


「先生も、参加してくれるよね?」


美沙さんがにやりと笑う。


「俺はここでみんなを見守ってるよ」


思った通りの反応だった。


***


「これからペア決めをしたいと思いまーす!呼ばれた人はクジ引いてね!」


すぐにジェスチャーゲーム大会は始まった。
私も名前を呼ばれ、箱に入った三角に折られた紙を引く。


誰となるんだろう。

先生は参加しなそうだし、
美沙さんとペアだったら楽しいかも……


ドキドキしながら手に取った紙を開いた。



そこに書いてあったのは——



「先生!?」



思わず出た声は、
教室の奥で一人、悠々とお茶を飲む本人にまで届いた。



「——俺?」



皆が振り向く先で、驚くように目を丸くする先生。

一方の美沙さんは、私にだけ見えるようにピースしていた。



み、美沙さん……!?



こうして、半ば強制的に先生も参加することになった。


出されるお題は英語。
「Bird」「Baseball」など簡単なものが多く、
生徒たちが楽しみながら正解していく。

負けたペアには、
美沙さん考案の罰ゲームが待っているらしい。


美沙さんの考える罰ゲーム、なんとなく怖いな……


気づけば、最後のペアの番になっていた。

——先生と私のペアだ。



「じゃあ、せっかくだし三崎さんがジェスチャーやる方で」

「えっ、私ですか!?」



先生がジェスチャー側の方が絶対に盛り上がるのに……



「私より先生がやった方が良いかと……」



一応提案してみる。
けれど先生は軽く首を横に振った。



「いいから、いいから」



軽く背中を押され、前に出る。
仕方なく、こっそりと出されたお題を見た。


……!?


私は、目を疑った。

美沙さんが持つパネルに書かれていたのは——


「 kiss 」


なにそのお題!!!

急に私の時だけ、上級編すぎません!?


そこに「やって!やってー!」と
茶化すような美沙さんの声が飛ぶ。


ちょっと待って、
どうやって表現するの……!?


頭が真っ白になる。

とりあえず、困り顔をしてみたり、唇に指を当ててみたりした。


恐る恐る先生を見ると、
腕を組みながらこちらをじっと見ていた。



「うーん、何だろう」



首をかしげる。



だ、ダメだ……………。



恥ずかしさも相まって、上手く表現できない。

すると先生が言った。



「もっと気持ち込めて!」



うそでしょ!?!? 先生煽ってる!?



気持ち込めるって、どうすれば——!?



その時、”眠たげウサギ”を見て言った
美沙さんの言葉が頭によぎった。


”眠たそうっていうか、うっとりみたいな?”


その言葉通り、目を少し細めて”それっぽい顔”を作ってみる。



「えっと……くしゃみ?」



先生の言葉に、教室がどっと沸いた。



せ、先生……!!!
ていうか私、今そんな顔してるの!?



一気に顔が熱くなる。



お願いだから、早く正解して!!!



すると今度は、


「もっと俺のほう向いてやってくれないと、わからないなあ」


そんな“注文”が飛んできた。


そんなの無理に決まってる……!!


先生を意識すればするほど動きがぎこちなくなる。
すると、先生がくすっと笑う。


わ、笑われた!!!


真っ赤な顔で口を尖らせている自分は、
きっと”茹でだこ”でしかない。


「三崎さん面白すぎ!」

「もうやめてお腹痛い〜」


周囲からそんな声が聞こえてくる。


先生に向かって、キスのジェスチャーなんて——



「やっぱ、無理!!!」



ついに降参した。

その一言で、私たちは「負け」となってしまった。


「ごめん、ごめん」


先生は笑いながら言う。


答える気、あったのだろうか……


「はい!では罰ゲームでーーす!!」


そしてなぜ、美沙さんはこんなに嬉しそうなんだろう。


罰ゲームって、渾身のモノマネとか?
でも私、モノマネとかやったことないし絶対下手だな……


頭で色々と考えていると、罰ゲームが発表された。



「罰ゲームは!名付けて、 ”英語de甘い言葉を囁け!”ゲームで〜す!!」


「「……えっ!?」」



先生と私の声が重なる。


答えられなかった人が
ペアの相手に甘い言葉を囁くのだという。


そんなの……

先生からしても公開処刑なのでは?


「あ、あの」


私は先生の方を振り向いた。


「これは流石にちょっと、出来ないですよね……!?」


私が聞くと、先生が小さく息を吐く。



「仕方ないな………負けちゃったし」



!!!?



「ヒューヒュー」

「見たーい!」


盛り上がる教室。



そ、そんな……っ。



混乱する私に向かって先生が歩いてくる。
床に視線を落とすも、目が泳ぐ。



先生の黒い靴が、目の前で止まった。



「……えーっと」



目が合わせられない。
どこを見たらいいのか分からない。



次の瞬間、ほんの少しだけ距離が近づく。




——そして、私の耳元で静かに囁いた。




「You are the most beautiful person I’ve ever met.」

(君は僕が出会った中で一番美しい人だ)




周りの歓声が聞こえなくなるくらい、
自分の鼓動だけが聞こえた。



「きゃー!キュン死するー!」

「訳してー!」



私は、思わずうつむいた。

耳まで、熱い。



「そ、そんなことは………」



それだけしか返せない。

先生はふっと笑って、少しだけ距離を戻した。




「……罰ゲームだから」




耳に響く低い声が、余計に私の鼓動を速くさせた。



平気でそういうことを
さらっと言ってくる先生は、



やっぱり………ずるい。



嬉しい。
でも、恥ずかしい。



周りの生徒たちが拍手する中、


「頭が追いつかない……」


全身の熱が抜けず、ただ、その場に立ち尽くしていた。


ーーー