女王陛下のお婿さま

 パレン公爵家を相続するのは一人息子のクラウスなのだが、その頃の彼はまだ七歳だ。ハレルヤ王国では、家の相続や爵位の継承が出来るのは、二十歳からだと決まっている。

 だから、その当時のクラウスにはまだ爵位の継承権も家の相続権も無く、そのせいで親族間で争いが起こってしまった。クラウスが成人するまで、誰がパレン家の爵位を継承するか、誰が遺産を管理するのか……親族がいろいろな思惑で争い、あろうことかクラウスに暗殺の魔の手が伸びていた。

 それを救ったのが、前国王クリストフ・デュック・ハレルヤ十六世――アルベルティーナの父親だった。

 大人たちの汚い策略に巻き込まれたクラウスを、アルベルティーナの遊び相手として城へ召し上げた。流石に城の中にまでは、パレン家の者たちも手は出せなかった。

 そうしてクラウスは、城で暮らすようになったのだった。

「――ティナの父親……クリストフ様には恩義がある。それに報えたと思えるまで、俺は城に仕えていたいと思っている」

 今もこうして生きていられるのは、クリストフがお家争いから自分を救ってくれたからだ。だからクラウスはもうとうに成人しパレン家を相続し、爵位を継承出来る年齢になっているのに、城を離れる事はしなかった。

「はいはい、何度も聞かされて分かってるから、好きなだけお城に居て頂戴。でも、屋敷の方は大丈夫なの? 今は叔父様が住んでいらっしゃるんだっけ?」

「ああ……丁度今日、叔父に呼ばれて屋敷に帰ってたんだ」

「パレンのお屋敷に? だから今日は今まで顔を見せなかったのね」

 今日は、朝からクラウスの姿が無かった。午前中は官僚たちとの会議で部屋に閉じ込められ、午後は夜からのこの舞踏会の支度に煩わされ。彼がいない事に気が付いてはいたが、その理由を誰かに尋ねる暇が無かった。

 クラウスが自分の屋敷に帰ったと聞いて、アルベルティーナはドキリとしてしまった。彼がその気になれば、そのまま城へ戻って来なくなるかもしれない……。