「……アルベルティーナ様、お疲れの様ですから、私はこれで失礼し――」
「――失礼なのは貴方でしょ! クラウス!」
「え……?」
突然の強い言葉に、クラウスはポカンとしてしまった。あれだけ彼に視線を向ける事をしなかったアルベルティーナが、今度は睨み付けるように見ている。
「どうして! 何度言っても治らない! いつも言ってるでしょ!? 二人でいる時は私の事は『女王陛下』とか『アルベルティーナ』とか、そんなふうに呼ばないで!」
その言葉でクラウスは、彼女の機嫌が悪い理由がようやく分かった。だが……
「私も再三申しております……昔とは、違うんです。一国の女王陛下に、そんな非礼な事はできません」
(昔とは、違う……)
クラウスのその言葉に、あれだけ怒っていたアルベルティーナの表情が曇る。大きな瞳は潤み、今にも泣きそうで……。
でも、そうならないように彼女はグッと唇を噛み締めた。
「ああ、そう。いいわ、クラウスがそうしたいなら、そうすればいいわ。でも、それなら私、今ここでドレスを脱いで着替えるわよ! それに着替えの手伝いにマイラを呼ぶわよ!」
言うやいなや、アルベルティーナは立ち上がると背中に手を回し、ドレスを止めていた紐を解き始めた。その剣幕にあわてたクラウスは、彼女の両手を掴みそれを強引に阻止した。
『マイラ』というのは、アルベルティーナに子供の頃から使えている侍女長だ。年は十も上だが昔から二人は仲が良く、クラウスは気の強いマイラにいつもやり込められている。
そんなマイラに、アルベルティーナがドレスを脱ごうとしている現場に自分がいる所を見られたら、どんな目に合ってしまうか……想像するのも恐ろしい……。
「わ、分かった、降参だ――ティナ。これでいいんだろ、俺の負けだ」
とうとうクラウスはそう言って、白旗を降ったのだった。


