女王陛下のお婿さま

 アルベルティーナの私室は、城の東側の棟にある。代々国王の部屋があるのは南棟なのだが、彼女は子供の頃から使っている東棟の部屋を、即位してからも移る事はしなかった。

 山の向こうから朝日が昇って来るのが見られるその部屋を、とても気に入っていたのだ。しかし部屋は棟の最上階で、長い階段を登らなくてはいけない為、身の回りの世話で行き来する侍女たちには不評のようだが。

 アルベルティーナが部屋に戻るとそこに居たのは、彼女に仕える一人の侍従(じじゅう)だった。

「――お早いお帰りですね、アルベルティーナ女王陛下」

 窓辺で花瓶に花を生けていた男は、作業の手を止め彼女を迎えた。

 女王の身の回りを世話するのは女性の侍女たちばかりなのだが、彼だけは男の身で例外的に彼女に仕えている。

 アルベルティーナより頭一つ分も高い身長に、茶色に近い金髪。光の加減でようやく緑だと分かる程の深い色の瞳。年は彼女と同じ二十四歳。その侍従の顔を見たとたん、アルベルティーナは彼とは正反対の機嫌の悪そうなムスッとした表情になってしまった。

「……どうしてこんな時間に花なんて生けてるのよ、クラウス」

 彼女は侍従――クラウスの笑顔を無視するように目の前を横切り、長椅子にどっかりと腰掛けた。

「この花は今夜舞踏会に来られた、ナバルレテ国の王子様からの贈り物です。ですから早く生けた方がいいと思いまして。陛下も会場では王子にお会いになられたでしょう?」

「人が多かったから、そんなの誰だか覚えてないわ」

 トゲだらけのアルベルティーナの言葉に、クラウスは戸惑った。彼女の機嫌が悪いのはよくある事。でも今は、その理由が分からない。