女王陛下のお婿さま

 会場を見渡すと、音楽に合わせて踊る紳士淑女。その中に、女王陛下をいつダンスに誘おうかと画策している者たちの姿が、舞うドレスの隙間からチラリチラリと見え隠れする。

 そんな様子を暫く眺めていたアルベルティーナだったが、はあ、とまたため息を零してしまった。

「……今夜は、止めておきます。少し頭痛もするので、もう退場してもいいかしら、ニコライ?」

 それは嘘だけど、嘘では無かった。結い上げた髪がきつくて、さっきからこめかみがズキズキしている。

 しかしその発言は、少しばかりニコライを驚かせてしまったようだ。慌てた様子で侍医(じい)侍女(じじょ)を呼ぼうとしたが、それをアルベルティーナが今度は慌てて止めた。

「ああ、ニコライ……大丈夫よ。部屋で少し休めばすぐ良くなるわ。だから、退場のファンファーレは無しで、そっとここから下がらせてちょうだい」

「かしこまりました! 女王陛下の仰せのままに!」

 ニコライの計らいで、アルベルティーナは入場した時とは反対に、誰にも気付かれずに大広間を出る事が出来たのだった。