女王陛下のお婿さま

 ……アルベルティーナが目を覚ますと、よく見慣れた白い天井が見えた。横になったまま辺りを見渡してやっと、そこが城の自分の部屋だと分かる。部屋は小さなランプが点いているだけで薄暗く、どうやらまだ夜のようだった。

(……私、鏡の泉に落ちて……)

 溺れた後の事を思い出そうとしたが、何も分からなかった。水の中で溺れて気を失ったのだ、当然だ。

 ふっと足元に重みを感じ、体を起こした。そこにはベッドに突っ伏して眠っているクラウスの姿。それはまるで、さっきまで見ていた子供の頃の夢の続きのようで。思わずアルベルティーナはクスクスと笑ってしまった。

 その声と揺れで起きてしまったのだろう、クラウスが顔を上げた。

「ティナ……? 大丈夫か……?」

「おはよう、にはまだ早いかしら、クラウス」

 寝起きで少し寝ぼけているのだろうか。珍しくクラウスはアルベルティーナの事をちゃんと『ティナ』と呼んだ。

「もう大丈夫……私、またあの湖で溺れちゃったのね。クラウスは覚えてる? 子供の頃もあそこで私が船から落ちた事……」

「ああ……そんな事もあったな」

 クラウスは懐かしそうに目を細める。彼がその事を覚えていたのが嬉しくて、アルベルティーナも微笑んだ。

 そしてベッドから降りると、あの時と同じように窓へ。窓の外はやはり同じように空が白み始めていた。

「――ねえ、クラウス。あの時の約束も、覚えてる?」

 クラウスも立ち上がったが、あの時のようにアルベルティーナの隣には来なかった。その場に立ち尽くしたまま。

「ああ……覚えてる…………」

 ――約束を、覚えていてくれた……!

 あんな子供の頃の約束なんて、もうとっくに忘れてしまっていると思っていた。アルベルティーナは嬉しくて、くるりと体を彼に向けたが、そこに立っていたのは暗い表情の彼だった。