「――ねえ、ティナ」
すると、ずっと二人のやり取りを静観していた母親が、初めて口を挟んだ。
母親のエメリナは、父親クリストフよりも随分と若い。控えめで大人しい性格で、いつも夫の傍に優しく寄り添っている。夫のクリストフも、エメリナを大切に愛していた。家臣たちからは、おしどり夫婦と言われるほどに。
母親だが、エメリナがクリストフとアルベルティーナの話に口を挟むなんて、とても珍しい事だった。
「なにかしら、お母様?」
「ティナ、よく考えて……気が乗らないのなら、お断りしてもいいのよ……?」
(……お母様はいつも優しい)
心を見透かしたような母親の言葉にアルベルティーナは少しドキリとしたが、無言で首を横に振った。
「大丈夫よ、お母様。ちゃんと考えているから」
エメリナはそんな娘を見て、悲しそうに微笑んだ。
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