女王陛下のお婿さま

 翌朝、アルベルティーナは両親の部屋で共に朝食をとっていた。食事は大抵、広い食堂でとるのだが、今朝は大事な話があるとの事で、部屋に料理を運ばせていた。

 話があると言ったのは父親のクリストフなのに、何も話さない。黙々と食事をし、やっと口を開いたのは食後の果物を食べ始めようとした時だった。

「――ティナ、昨夜の舞踏会はどうだった? 何というか、その……楽しめたのかい?」

 奥歯に物の挟まったようなクリストフの言葉に、アルベルティーナは食べようとフォークに刺したイチゴをフォークごと皿に置いた。

「別に、いつも通りだったわ、お父様」

「そうか……実はな、昨夜舞踏会に一人、隣国の王子が参加していたんだが、覚えているかい?」

 そう言われて、昨夜会ったいろいろな人の顔を思い浮かべたが、真剣には見ていなかった。だからその誰もの顔に霞がかかっているようで、アルベルティーナは顔をしかめた。

 ちゃんと思い出せたのは、補佐役のニコライの顔だけだった。

「ごめんなさい、お父様。分からないわ……」

「ああ、まあ、よい。顔はこれから覚えれば」

「これから……?」

 これから、とはどういう事なのだろう。不思議に思ってアルベルティーナが首を傾げると、クリストフは頷きながらにこりと笑った。

「王子がいたくお前を気に入ってな、今日の昼食を共にしたいと申し出があったんだ」

 聞くと、その王子は留学という名の諸国漫遊中。たまたま訪れた昨夜の舞踏会で、一目見てアルベルティーナを気に入ってしまったらしい。しかも昨夜から、この城に滞在しているという。