女王陛下のお婿さま


「叔父様の用事は何だったの? やっぱり、帰って来いって……?」

 クラウスはゆっくりと首を横に振った。

「そうじゃないが……今は叔父が屋敷とパレン家を管理してくれてる。俺がすぐに戻らなくても、何の問題も無い」

 まだ帰らない、そう聞く度にアルベルティーナは安堵する。侍従なんていつ辞めてもいいと口では言うが、それはただの強がりだ。

 本当は、ずっと傍にいて欲しかった。

 昔から国王の一人娘だというだけで、アルベルティーナの回りには友人は少なかった。皆親切に寄っては来るのだが、腹に一物ある者ばかり。女王になると更に友人を作るのは難しくなってしまった。

 本当に心を許せる者は、両親を除けば今は、侍女長のマイラと、このクラウスだけ。だからアルベルティーナは、クラウスが侍従として自分の近くに居てくれるのが嬉しいし、ホッと出来る。

 それに……。

「――さ、さあ、クラウス。もうこんな時間だし、本当に着替えるからマイラを呼んできてくれない? そろそろ休みたいの」

「ああ、分かった」

 何だか急に寂しい気持ちになってしまい、それを振り払うように無理に彼女は明るい声を出した。クラウスもその言葉に長椅子から立ち上がる。

 彼は部屋を出ようと扉へ進んだが、何かを思い出したようにアルベルティーナへ振り返った。

「一つ言い忘れてた、ティナ」

「何?」

「さっきここへ来る前に、南棟でクリストフ様に言伝てされたんだ」

「お父様に?」

「ああ、明日の朝、大事な話があるから部屋に来るようにって」

「……分かったわ、ありがとう」

 その『大事な話』が何なのか、簡単に予測がついた。きっと今夜の舞踏会で良い相手が見つかったのかどうかとか、そんな話だろう。舞踏会やパーティーがあった後はいつもそうだ。

 アルベルティーナはうんざりして、大きなため息を吐いた。