城の大広間で舞踏会が催されていた。その談笑の声や音楽の中に、チリンチリンと二度ほど、軽やかなベルの音。するとそれを合図に、演奏していた楽師たちはピタリと音楽を止めた。

 音が止まると、今までダンスをしていた貴族の紳士淑女たちも、何事かと動きを止めた。あとは様子を探るようなざわめきだけが聞こえていたが、それを遮るようにファンファーレが高らかに鳴り響く。

 ファンファーレが終わると、会場は静まり返っていた。いつの間にか皆は上座にある玉座へ期待の眼差しを向けている。その側にいた、黒い燕尾服姿でちょび髭の背の低い中年男性は、ごほんと仰々しく咳払い。

 そして――

「――アルベルティーナ・フレイ・ハレルヤ十七世女王陛下のお出ましでございます!」

 しんとした会場に、少し高いがよく通る男の声。その声に玉座のまた奥にある大扉が重々しく開かれ、美しいドレス姿の若い女性が現れた。

 会場中の誰よりも豪華で美しい深い青色のロングドレス。カラスの濡れ羽のような艶のある黒髪を上品に結い上げ、透き通った白い肌の胸元には、キラキラと宝石が輝いていた。皆に柔らかな笑顔を向けると、彼女はゆっくりと玉座に進む。その動きに合わせるように、貴族たちは次々に顔を伏せ頭を垂れた。

 玉座の前に来た女王アルベルティーナは皆の方へ向きなおり、美しい笑みを浮かべた。

「良い夜です。皆、今宵は存分に楽しまれよ」

 まるで心地の良いフルートの音のような声。それが彼女の形の良い口から紡がれると、会場中の誰もがその声にうっとりと聞き入り、次にまたその音がしないかと期待する。

 しかし女王陛下のお言葉はそれだけだった。アルベルティーナは皆にもう一度笑みを向けると、玉座にゆっくりと腰掛けた。

 女王の着席を確認すると、静寂を保っていた楽師たちは、また演奏を開始した。すると緊張の解かれた紳士淑女もまたダンスを踊ったり、近くの者と歓談を始めたのだった。