目の前で丸いスプーンをカチャカチャ鳴らしながら、日葵はオムライスを食べていた。小さな口元に赤いケチャップがついているのを見つけ、思わず口元が緩む。
荷物置き場のカゴには薄紫色のランドセルが入っている。小さな女の子と向かい合って食事しているのが、非現実的すぎて仕方ない。宝瑠は色とりどりのミックスサンドを、端から順に口へ運び、黙って咀嚼する。
「おいしいねっ、ママ!」
日葵が無邪気に笑みを咲かせる。天真爛漫なその笑顔を見ながら「そうね」と相槌を打つのだが。
宝瑠は小さく咳払いをし、「そのことなんだけどね」と日葵に話しかけた。
「私のことを“ママ”って呼ぶの、いったんやめてみない?」
「……なんで?」
日葵がきょとんとした表情で、ぱちくりと瞬きをする。宝瑠は言葉につまった。思わず視線を落とし、テーブルの縁を見つめた。
参ったな……どう言って諭すべきだろう。
先ほど日葵に見せてもらった“ママの写真”。あれはおそらく、久々津が用意した画像だろう。
それを何の疑いもなく信じている少女に、なんて言って教えるのが正解か。宝瑠は少しの間思案した。
「あのね……お父さんは、ひまちゃんのことを思って、“ママ”が誰かを教えてくれたんだと思う。……でも」
「——あれ? もしかして、四ノ宮?」
ちょうどそのときだ。テーブル脇の通路から声をかけられた。淀みのない澄んだ声を聞き、宝瑠は顔を上げる。
荷物置き場のカゴには薄紫色のランドセルが入っている。小さな女の子と向かい合って食事しているのが、非現実的すぎて仕方ない。宝瑠は色とりどりのミックスサンドを、端から順に口へ運び、黙って咀嚼する。
「おいしいねっ、ママ!」
日葵が無邪気に笑みを咲かせる。天真爛漫なその笑顔を見ながら「そうね」と相槌を打つのだが。
宝瑠は小さく咳払いをし、「そのことなんだけどね」と日葵に話しかけた。
「私のことを“ママ”って呼ぶの、いったんやめてみない?」
「……なんで?」
日葵がきょとんとした表情で、ぱちくりと瞬きをする。宝瑠は言葉につまった。思わず視線を落とし、テーブルの縁を見つめた。
参ったな……どう言って諭すべきだろう。
先ほど日葵に見せてもらった“ママの写真”。あれはおそらく、久々津が用意した画像だろう。
それを何の疑いもなく信じている少女に、なんて言って教えるのが正解か。宝瑠は少しの間思案した。
「あのね……お父さんは、ひまちゃんのことを思って、“ママ”が誰かを教えてくれたんだと思う。……でも」
「——あれ? もしかして、四ノ宮?」
ちょうどそのときだ。テーブル脇の通路から声をかけられた。淀みのない澄んだ声を聞き、宝瑠は顔を上げる。



