宝瑠が会社を辞めてから、ひと月が過ぎた。
辞める際、契約を結んでいた取引先の担当者へ電話を入れ、挨拶もきちんと済ませた。宝瑠が抱えていた案件は多く、また謹慎期間が解けてもいなかったので、社外で部下や同僚たちと会い、引き継ぎも済ませた。
こんな形で辞めることを、彼らは納得せず、何人かは宝瑠を引き留めた。「またチーフの元で働きたいです」と率直な思いも聞かせてもらった。
けれど、宝瑠の意志は堅かった。「もう決めたことだから」と言い、同僚たちの気持ちに感謝した。
同期の小野寺は、呆れて肩をすくめていた。
「四ノ宮らしいな」と言い、「なんで最後まで、そんなカッコいいんだよ」と続け、彼らしい包容力のある笑みを滲ませていた。
仕事をしていない間、天喜の協力を得て、宝瑠は引越しも済ませた。
二十九歳、無職の居候、彼氏なし。
以前の肩書きを思うと、ずいぶんと落ちぶれたものだ。宝瑠は自嘲ぎみに笑い、自身をくさした。
このままではいけないという気持ちは、確かにあった。仕事をしなければいけない。外でバリバリ働く姿を、日葵に見ていてもらいたい。
日葵のママとして、恥ずかしくないように生きたい。
そう思うのだが、現実は厳しく、なかなか新しい職が決まらない。それもそのはずだった。



