前任者が急な家庭の事情で退職してから二ヶ月。
現場の混乱を抑えるため、宝瑠はチーフというポストを引き継いだ。実力主義のこの会社、広告代理店で、年功序列という甘えは通用しない。
「はい、営業戦略課・四ノ宮です」
鳴り続ける電話に、寸分の迷いもなく応対する。スケジュールもタスクも分刻み。仕事は自分を保つための鎧だ。余計な感情も、過去の人間関係も、いっさい関与しない。
宝瑠は数字で結果を出してきた。誰かに甘えることも媚びることもせず、ただストイックに、“そうなりたくない女性像”から自分を遠ざけ続けた結果——気づけばこの席に座っていた。
「今日も四ノ宮チーフ、冴えてるね」
「かっこよすぎ……」
テキパキと案件をさばいていく宝瑠を見て、周囲の女性社員たちが囁き合う。憧憬の眼差しを向けて「まさに才色兼備だよな」と部下の男性社員も会話に混ざった。
電話を終えた宝瑠がチラッとその社員たちに目を向けると、誰もが口を噤み、抱えているタスクに取り掛かった。
宝瑠は曖昧に眉を下げ、小さく息をついた。唇の端をかすかに持ち上げた。
*
デスクを離れ、束の間の休息を求めてカフェスペースへ移動する。宝瑠はコーヒーサーバーから注がれたカップを取り出すと、その淵に口を付けた。
「せ〜んぱいっ」
ふと、かたわらより可愛らしい声に呼ばれ、サッと横目を向ける。
現場の混乱を抑えるため、宝瑠はチーフというポストを引き継いだ。実力主義のこの会社、広告代理店で、年功序列という甘えは通用しない。
「はい、営業戦略課・四ノ宮です」
鳴り続ける電話に、寸分の迷いもなく応対する。スケジュールもタスクも分刻み。仕事は自分を保つための鎧だ。余計な感情も、過去の人間関係も、いっさい関与しない。
宝瑠は数字で結果を出してきた。誰かに甘えることも媚びることもせず、ただストイックに、“そうなりたくない女性像”から自分を遠ざけ続けた結果——気づけばこの席に座っていた。
「今日も四ノ宮チーフ、冴えてるね」
「かっこよすぎ……」
テキパキと案件をさばいていく宝瑠を見て、周囲の女性社員たちが囁き合う。憧憬の眼差しを向けて「まさに才色兼備だよな」と部下の男性社員も会話に混ざった。
電話を終えた宝瑠がチラッとその社員たちに目を向けると、誰もが口を噤み、抱えているタスクに取り掛かった。
宝瑠は曖昧に眉を下げ、小さく息をついた。唇の端をかすかに持ち上げた。
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デスクを離れ、束の間の休息を求めてカフェスペースへ移動する。宝瑠はコーヒーサーバーから注がれたカップを取り出すと、その淵に口を付けた。
「せ〜んぱいっ」
ふと、かたわらより可愛らしい声に呼ばれ、サッと横目を向ける。



