天喜の低い呟きに被さり、機内放送が流れる。そろそろ離陸するようだ。

「あれって。天喜も……、一緒だから?」

 意を決して出した声は、わずかに震えていた。

 彼のことを知りたい——そう思うけれど、いつものように「それ以上踏み込むな」と締め出されやしないだろうか。

 宝瑠は、不安から隣を見れずに前のシートの背をじっと見つめていた。

 張り詰めたような固い表情をする宝瑠を、天喜は横目に見やり、ハァ、と重い息を吐き出した。どこか観念するような温度を伴っていた。まるで心の奥にある、鍵のかかった扉を、少しだけ開けるような響きがあった。

「そうかもな」

 天喜がぽつりと言った。

「小さいころ……ちょうど今の日葵ぐらいの歳だったかな。近所のババア共がよく俺のことを見て言ってたんだよ。可哀想、可哀想って」

 宝瑠は頼りなく眉を下げ、隣の天喜を見つめた。彼は顔をしかめながら、悪態をつくように続けた。

「“昨日もお父さんに怒鳴られてた”“弟さんだけ贔屓されてる”“お母さんは庇ってくれないのかしら”って……。聞こえよがしに言ってきやがってな、めちゃくちゃ腹が立った」
「……なんで、そんな……?」