安堵から宝瑠の硬い表情がほどけた。小さく笑みを浮かべ、「ありがとうございます」と礼を述べる。
「この方向性で進めましょう」
そう言って彼が立ち上がり、宝瑠に握手を求めた。宝瑠は内心で歓喜しながら、並樹常務と握手を交わす。
大手総合企業のナミキホールディングスと契約が結べる、この功績はでかい。
ふと、スマホの着信音が鳴り響いた。「失礼」と言い、並樹常務が上着の内ポケットに手を入れる。画面を見る表情が途端に柔らかくなる。
チラッと彼の視線が飛んできた。電話だと察し、宝瑠は「どうぞ」と手のひらを差し出し、出ることを促した。彼は申し訳なさそうに微笑み、小さく会釈すると、くるりと背を向けた。
「もしもし? どうしたの?」
小さな子に語りかけるような口調だった。さっきまで脳裏に浮かんでいた久々津を、また思い出す。
「 駆が? ……そっか。うん、うん……泣いてもいいよ。想乃は、ちゃんと頑張ってるじゃない」
合間で何度も頷き、彼は穏やかな口調で真摯に応えていた。電話の相手は、おそらく奥さんだろう。そう、宝瑠は察した。
昨年末、並樹常務が結婚したと風の噂で耳にした。宝瑠とほとんど変わらない年齢で、次期社長を期待される彼の結婚は、社交界に激震を与えた。
「この方向性で進めましょう」
そう言って彼が立ち上がり、宝瑠に握手を求めた。宝瑠は内心で歓喜しながら、並樹常務と握手を交わす。
大手総合企業のナミキホールディングスと契約が結べる、この功績はでかい。
ふと、スマホの着信音が鳴り響いた。「失礼」と言い、並樹常務が上着の内ポケットに手を入れる。画面を見る表情が途端に柔らかくなる。
チラッと彼の視線が飛んできた。電話だと察し、宝瑠は「どうぞ」と手のひらを差し出し、出ることを促した。彼は申し訳なさそうに微笑み、小さく会釈すると、くるりと背を向けた。
「もしもし? どうしたの?」
小さな子に語りかけるような口調だった。さっきまで脳裏に浮かんでいた久々津を、また思い出す。
「 駆が? ……そっか。うん、うん……泣いてもいいよ。想乃は、ちゃんと頑張ってるじゃない」
合間で何度も頷き、彼は穏やかな口調で真摯に応えていた。電話の相手は、おそらく奥さんだろう。そう、宝瑠は察した。
昨年末、並樹常務が結婚したと風の噂で耳にした。宝瑠とほとんど変わらない年齢で、次期社長を期待される彼の結婚は、社交界に激震を与えた。



