ドキン、と心臓が鳴った。彼の言い方に若干の引っ掛かりを覚えた。無意識に眉を寄せ、宝瑠は口を噤んだ。

「俺は良かったと思うよ、今日会えて」

 言いながら天喜は、すっと目を細めた。

「宝は瑠奈との思い出っていうか……過去の亡霊みたいな存在に、もう縛られる必要もなくなったし。あのときの自分がどうだったとか、瑠奈を傷つけていたかもしれないとか……そういうの、いっさい気にせず、前に進めばいい」
「……そんなふうには、考えられないよ」
「考えるんだよ、無理やりにでも。それが瑠奈の想いに応えるってことだと……俺は思うけどな」

 天喜の落ち着いた声が静かに胸に染み入った。過去を悔やまずに未来に意識を向ける——彼らしい考え方だなと思った。

 車は広い道路を走り抜け、やがてレンタカー営業所へ辿り着く。手早く返却の手続きを済ませ、そのまま空港行きのシャトルバスに乗り込んだ。

 静かな車内に揺られながら、宝瑠は瑠奈に言われた言葉を改めて反芻し、頭の中で整理していた。

 ——「私さ……嫌なんだよね。“可哀想”って言われるの」
 ——「“可哀想”は無理。私、そんなに惨めじゃないしって……そう思っちゃうから」

 “可哀想”

 この言葉について、思うところがひとつあった。以前天喜からも同じようなことを言われたのだ。