新千歳空港の到着ロビーを抜けると、北海道特有の澄んだ空気が頬を撫でた。夏だというのに、風は涼しく、東京とは違う静けさがあった。
宝瑠はレンタカー会社の受付で手続きを終えると、案内されたシャトルバスに乗り込んだ。天喜の隣に腰を下ろし、動き出す車窓の外を眺める。
「レンタカーって、もっと空港のすぐ横とかにあるのかと思ってた」
ぽつりとこぼすと、天喜がかすかに笑った。
「北海道は広いからな。敷地にも余裕ある分、営業所も少し離れてるんだ」
そう言って視線を前に戻す天喜の横顔を、宝瑠はちらりと見つめた。
バスは滑るように進み、空港の裏手を抜け、広々とした空の下を走っていく。五分ほどの道のりの先に、目的のレンタカー営業所が見えてきた。
宝瑠と天喜は真新しいSUVのドアを開けて乗り込んだ。
天喜がハンドルを握り、静かにエンジンが始動する。フロントガラスの向こうに広がる真っ直ぐの道を、車は札幌刑務所へ向けて走り出した。
日葵はというと、昨夜天喜が小野寺宅へ迎えに行き、今朝また預かってほしいと頼んだという。
日葵は文句ひとつ言わなかった。聞き分けがいいというより、小野寺宅の赤ちゃんと遊ぶのに夢中らしい。「夜には迎えに来るから」と言われて、彼女は二つ返事で頷いたそうだ。



