そんな瑠奈が、殺人なんていう衝動に駆られたのだとしたら——。おそらくはそこまで追い詰められていたからだろう。

 その方法でしか、自分とお腹の中の日葵を守れないと判断したから。

 宝瑠は静かに鼻をすすった。

 目の前にいる天喜に、泣いていることを悟られたくないのに、テーブルに落ちた丸い粒が、それを何よりも雄弁に物語っていた。

 泣いてなんかいない、そう隠し通そうとすればするほど、自らを滑稽だと思った。

 天喜は「泣く女が嫌い」だと言っていたから。泣き顔を見られるのだけは、嫌だった。

 いつまでも顔を上げられずに、宝瑠はそばにあるおしぼりをぎゅっと握りしめた。

 沈黙の中、頬に付いた涙をそっと拭った。

「……だからなの?」

 やや掠れた声で、天喜に問いかけていた。

「だからひまちゃんに……。実のお母さんのことを隠してるの?」

「……ああ」。天喜が低い声で、ゆったりとした話し方で続けた。

「本当は瑠奈に……“自分は死んだことにしてほしい。子供にはそう伝えて”って言われていたけど。
 俺の中で……どうしても瑠奈を死なせることができなくて。“ママは遠くで生きてる”、“いつか会える日が来る”って、日葵に言って聞かせた。瑠奈を死んだことになんて、したくなかった」
「……うん」