「ゲームクリエイターのAki。こと、久々津(くぐつ)天喜(あき)といいます」

 名刺を受け取った途端、目が止まる。

「あ……」

 喉の奥で、かすかに声が引っかかった。

「株式会社レミックスの、四ノ宮と申します」

 ついいつもの癖で社名と苗字を名乗り会釈する。ジャケットの内ポケットから名刺入れを取り出し、一枚を差し出した。

 宝瑠は受け取った名刺に再度視線を落とした。『久々津 天喜』という文字と、携帯番号だけが無機質に並んでいた。

「すみませんが。仕事上、プライベートな情報は伏せて活動してるんです」
「……えっ?」
「俺に娘がいること、社内の人間に黙っててもらえますか?」
「えと。それは……まぁ、はい」

 というより、むしろ興味がない。宝瑠は日頃からゲームとは無縁だし、天才クリエイターだかなんだか知らないが、他人の私生活に関与する気などさらさらないのだ。

「引き留めてすみません、急いでるんですよね?」
「あっ、はい」

 久々津(くぐつ)の手に差し示され、宝瑠はハッとする。無意識にまた腕時計を見る。ほんの数分しか経っていないのが、不気味なほどだった。

「娘のさっきの言動、忘れていただいて結構ですから」
「……え?」
「あなたには、全く関係のない……事故みたいなものですから」

 そう言うと、久々津が踵を返した。娘のいる公園へ向かい、穏やかに声をかけている。