その整然とした空気の中で、唯一といっていい乱れが、デスクの左端にあった。
普段は何も置かれていない天板の上に、数枚の白い紙が無造作に重なっていた。その光景が妙に目を引いた。
……仕事の資料かなにか?
何にしろ珍しいと思ってしまう。キーボードのそばに、そっと書類を置いて出るつもりだった。しかし、足元に転がるペンか何かを踏んでしまい、わずかな驚きから体を震わせた。
手がうっかりデスクに触れてしまい、紙束が数枚床に滑り落ちた。
しまった……。
やってしまったと思い、胸の内でため息をついた。
拾い上げようとかがんだそのとき、宝瑠の手がふいに固まった。
走り書きのコピー用紙の下に覗いた一枚の便箋。手紙だということはわかった。天喜の自筆で書かれたそれを見つめ、宝瑠は一時、息を止めていた。
——【瑠奈へ】
その宛名書きに目を見張り、おそるおそる便箋のみを拾い上げてしまう。指先が震えた。
ただの偶然に他ならない。
瑠奈という名前だって、そんなに珍しくはないのだから。
天喜が昔の女に、気まぐれで書いた……ただそれだけの話。
——頭ではそう理解するものの、心の奥に影を潜めた感情が一気に湧き出し、気になって仕方なかった。
宝瑠は彼が書いた文面にゆっくりと目を落とした。
罪悪感よりも、心のざわめきのほうが勝っていた。
普段は何も置かれていない天板の上に、数枚の白い紙が無造作に重なっていた。その光景が妙に目を引いた。
……仕事の資料かなにか?
何にしろ珍しいと思ってしまう。キーボードのそばに、そっと書類を置いて出るつもりだった。しかし、足元に転がるペンか何かを踏んでしまい、わずかな驚きから体を震わせた。
手がうっかりデスクに触れてしまい、紙束が数枚床に滑り落ちた。
しまった……。
やってしまったと思い、胸の内でため息をついた。
拾い上げようとかがんだそのとき、宝瑠の手がふいに固まった。
走り書きのコピー用紙の下に覗いた一枚の便箋。手紙だということはわかった。天喜の自筆で書かれたそれを見つめ、宝瑠は一時、息を止めていた。
——【瑠奈へ】
その宛名書きに目を見張り、おそるおそる便箋のみを拾い上げてしまう。指先が震えた。
ただの偶然に他ならない。
瑠奈という名前だって、そんなに珍しくはないのだから。
天喜が昔の女に、気まぐれで書いた……ただそれだけの話。
——頭ではそう理解するものの、心の奥に影を潜めた感情が一気に湧き出し、気になって仕方なかった。
宝瑠は彼が書いた文面にゆっくりと目を落とした。
罪悪感よりも、心のざわめきのほうが勝っていた。



