AI生成でママにされた私は、シングルの年下クズ男子に再構築されています。

「え、あの、佐伯」

 これにはちょっとわけが、そう言いかけて、先に佐伯の声に遮られた。

「大丈夫です。僕、誰にも言いませんから」

 そう続けて、彼は小さく笑みを浮かべた。宝瑠は言葉を飲み込み、曖昧に開いた口を閉じた。

 ちょうど分かれ道に差し掛かったところで、佐伯が左手側の方角を指差した。

「じゃあ僕、駅なんで。お疲れ様でした」
「お、お疲れ様……」

 自分とは別の方角に向かって歩き出す彼の背中を見つめ、宝瑠はそっと息を吐き出した。腕時計の針に目を落とし、帰路を急ぐことにした。

 本当のことを話す機会は、もう訪れないかもしれない。

 ……そんな気がした。

 *

「ママ、おかえりー!」

 玄関の扉を開けると、日葵の声が弾けるように響いて、すぐそばまで走ってきた。

 宝瑠は反射的に笑ってしまう。「ただいま、ひまちゃん」。

 仕事の疲れも、さっきまでのモヤモヤも、この一瞬だけは薄れてくれる。

「帰ったか? お帰り」

 リビングから天喜の落ち着いた声が聞こえる。「ただいま」と返事をした。

 天喜は紺色のエプロンを外し、「今日は意外と早かったんだな」と宝瑠に一瞥をくれた。

 なんだろう……。なんか天喜、機嫌いい?

 宝瑠はふっと口元を緩め、通勤鞄をソファの足元に置いた。

「うん。議事録まとめただけだから」と言い、すぐそばにあるセンターテーブルに視線を向ける。