AI生成でママにされた私は、シングルの年下クズ男子に再構築されています。

 指先を軽くほぐすように動かしながら、デスクの時計に目をやった。午後六時半。予定よりも少し早い。

 椅子を引いて立ち上がったところで、バタバタと廊下を駆ける音が宝瑠のいるフロアに近づき、ふと戸口に目を向けた。

「……あっ!」

 慌てて顔を出したのは、部下の佐伯だった。彼は若干上がった息を整えながら、「四ノ宮チーフ、なんで?」と尋ねた。

「定時で帰ったはずじゃ……?」

 そうも言われ、宝瑠はいくらか目を泳がせた。

「今日中にやらなきゃいけない仕事を思い出して、戻ってきたのよ」
「……え。残業、ですか?」
「ええ、まぁ」

 宝瑠は肩をすくめて笑い、「それよりさ」とさりげなく話題を切り替えた。

「佐伯はどうしたの? なにか忘れ物?」
「あ、はい。スマホを……」

 佐伯は自分の席に向かい、引き出しの中からつるりとした青い端末を取り出した。

「駅まで歩いて行って改札で……スマホ無いのに気づいて。そっからダッシュですよ」
「そうなんだ……それにしては、遅くない?」
「実は。僕も少しだけ残業して……それから寄り道したりしてたんで」
「えっ、残業してたの?」
「はい……明日提出の企画書、頭の中でこうした方がいいかもって急に閃いて、少し修正を」
「真面目ねぇ」

 宝瑠は、照れたように頭を触る佐伯を見つめ、くすくすと笑った。佐伯とともにフロアを出て、エレベーターホールへ向かう。