それが逃げなのか、守るべき優しさなのか、自分でも未だにわからない。

 宝瑠は難しい顔で口を結んだ。その様子を小野寺が見やり、話を続ける。

「もし、四ノ宮自身がその母親を探すことですっきりするんなら。俺としては、久々津さんと話し合って、探してみるのがいいと思うけど」
「だめ……絶対、拒否される」
「それは日葵ちゃんを前提とした話にするからだろ? そうじゃなくて。四ノ宮が自分の気持ちを整理したいって意味合いでお願いしたら……また違うんじゃない?」
「……うーん?」

 宝瑠は曖昧に首を傾げ、小野寺に視線を向けた。

「でも、本人は覚えてないって言うし。だいいち思い当たる節が多すぎるって、意味わかんないでしょ? 探すあてなんて、どこにも」
「日葵ちゃんが預けられていた施設、どこにあるかわかる?」
「え?」

 予想だにしないワードを聞き、宝瑠はきょとんと目を瞬いた。小野寺はアイスコーヒーを口に運びながら、ぼんやりと宙を見上げた。

「話の流れから考えると、日葵ちゃんのお母さん……産んでおそらく数日で施設の前に置いたと思うんだよね。うちの嫁さんもそうだったんだけど、産後まもなくだから、それほど動けないだろうし。その施設近辺に住んでたんじゃないの?」

 小野寺の洞察を受けて、頭の中に一筋の閃光が走る。

「あっ、そっか!」