熱くなった頬に手の甲を当てたとき、隣の小野寺がぽそっとつぶやいた。

「四ノ宮……なんていうか、まんざらでもなさそう……?」
「……は?」

 アイスコーヒーに口を付けた小野寺を見つめ、思わず表情が固くなる。

「なっ、なんでそうなるのよ!」
「いやいや、ごめんごめん。けどなんか、四ノ宮のほうでも、久々津さんのことを意識してるんじゃないかなぁって」

 胸がどくんと鳴った気がした

「してないわよっ、意識なんて……っ」

 小野寺は、やや半笑いで手の平を向け、ムキになる宝瑠をなだめた。

「まぁ、それはそれとして。四ノ宮としてはモヤモヤするよな」
「……え」
「日葵ちゃんの本当の母親も消息不明な状態だし。見つけてあげたいって気持ちもあるだろうけど……果たしてそれが日葵ちゃんのためになるかどうかって言ったら、また別の話になるし」
「そうなのよねえ……」

 宝瑠は両手で包んだ紙コップに視線を注ぎ、ため息をついた。

 日葵はまだ小学一年生の女の子。母親がいないというだけで、言葉にできない寂しさを父親だけで埋めてきた。父親に偽りの“母親像”を与えられ、それを心の糧にしてきたのだ。今さら母親は別にいて、さらにはビジュアルも違うなんて……伝える方が酷だろう。

 日葵のことを想うと、前にも後ろにも進めない。現状維持が一番だと思ってしまう。