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「えっ、マジで? そんなこと言われたの?」

 小野寺のリアクションを見て、宝瑠はわずかに頬を赤らめ、うんうん、と小刻みに頷いた。

 社内のカフェスペース。昼下がりのざわめきの中、窓際のカウンターテーブルに向かって小野寺と横並びに座り、コーヒーを飲んでいた。

 日葵の誕生日を終えた週末から、今日の月曜まで、宝瑠はまともに天喜の顔を見れずに過ごしていた。

 ——「宝が気を許したら、タイミングを見計らって俺も宝をいただくから」

 あの言葉が思った以上に効いている。最初から天喜が性欲魔人で、ぶっ飛んだ倫理観の持ち主だとちゃんと理解していたはずなのに、今になってなぜこうも意識してしまうのか。

 宝瑠はコーヒーをひと口飲み、視線を窓の外へ向けた。

「私としてはさ。日葵ちゃんのお父さんとして天喜と……久々津さんと上手くやれてると思ってたんだけどなぁ。ほんと、勘弁してほしい」

 彼を男として意識してしまう自分が嫌だった。天喜の性格や内面は別として、外見の良さだけで言えば、もろに宝瑠のタイプなのだ。

 そんな彼と、これまで素知らぬ顔で同居を続けてこられたのは、彼が女性に対してだらしなく、どこまでも“クズ”だと認識していたからだ。

 なのに、今になって「油断するな」は、反則なんじゃないかと思ってしまう。

「ていうかさ……」