「おまえ……バカなの? そんなことになったら働けなくなるだろ」
「わかってる。でも、欲しいんだ。私にとって、大切な存在」
それは生きる糧であり、希望なのだと天喜は察した。A子の気持ちは痛いほどに理解できた。とはいえ、簡単にイエスは出せない。
今の彼女には、子供を育てられるだけの生活力がないからだ。
天喜は彼女の要求を飲めず、きちんと避妊をした。
翌朝。窓の外は、ほんのりと薄紅に染まっていた。エンジンを止めたままの車内で、しばしの静寂が流れていた。
助手席で目を覚ましたA子は、ぼんやりとした表情のまま天井を見上げていたが、やがて自分で髪を結び直し、まっすぐに前を向いた。「行こう」とでも言うように頷いていた。
天喜は昨日訪れた旅館まで車を走らせ、そこで彼女を送り出すことにした。
「ありがとう、アキくん。……私、行くね」
その声には、もう昨日のような脆さはなかった。小さな震えは残っているものの、芯のようなものが宿っている気がした。
天喜は財布から一枚の名刺を取り出した。
「なんかあったら掛けてきて?」
そこには天喜の携帯の番号も記されていた。A子は目を丸くし、ぽつりと呟いた。
「久々津……天喜、くん」
「……あ」
そういえば、名刺イコール、フルネームが載っていたんだった。当たり前のことに気づいて、気まずそうに財布を仕舞った。
「わかってる。でも、欲しいんだ。私にとって、大切な存在」
それは生きる糧であり、希望なのだと天喜は察した。A子の気持ちは痛いほどに理解できた。とはいえ、簡単にイエスは出せない。
今の彼女には、子供を育てられるだけの生活力がないからだ。
天喜は彼女の要求を飲めず、きちんと避妊をした。
翌朝。窓の外は、ほんのりと薄紅に染まっていた。エンジンを止めたままの車内で、しばしの静寂が流れていた。
助手席で目を覚ましたA子は、ぼんやりとした表情のまま天井を見上げていたが、やがて自分で髪を結び直し、まっすぐに前を向いた。「行こう」とでも言うように頷いていた。
天喜は昨日訪れた旅館まで車を走らせ、そこで彼女を送り出すことにした。
「ありがとう、アキくん。……私、行くね」
その声には、もう昨日のような脆さはなかった。小さな震えは残っているものの、芯のようなものが宿っている気がした。
天喜は財布から一枚の名刺を取り出した。
「なんかあったら掛けてきて?」
そこには天喜の携帯の番号も記されていた。A子は目を丸くし、ぽつりと呟いた。
「久々津……天喜、くん」
「……あ」
そういえば、名刺イコール、フルネームが載っていたんだった。当たり前のことに気づいて、気まずそうに財布を仕舞った。



