マウスを転がし、過去のデータフォルダを開く。作りかけのゲームアセットたちの中に、ひとつだけ、妙に浮いているファイルがあった。
 開いた先に現れたのは、AIで生成した1枚の画像。

 宝瑠にそっくりな女性——自分の手でこっそり作った“理想像”だ。

 画面越しの彼女は、微笑を浮かべたまま、こちらを見つめている。言葉も発さず、何も拒まない。そのくせ、妙に温度があるような顔だった。

 新たに気づくことがあった。宝瑠から聞いた言葉のなかに、天喜が探していた答え(・・)が見つかったのだ。

 なぜ、自分はこの顔を理想の母親像として作ったのか。単なる偶然だけに留まらない。無意識に沈めていた記憶が、天喜にこの画像を作らせた。

 つまりどういうことか。

 俺はやっぱりこの顔を、一度見ている。
 たぶん、“A子”の携帯から。

 今からおよそ八年前。橋の上で会った、ひとりの少女を思い出していた。

 ——『昨日のことで……もし妊娠できたら。もう二度と死のうなんて考えない』
 ——『大丈夫。アキくんには迷惑かけないから』

 その声だけが、妙に鮮明に残っていた。
忘れたはずの出来事が、呼吸するみたいに、記憶の底から浮かび上がる。

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 天喜がその日、北海道へ訪れたのは、フリーで受けた小さな仕事のためだった。