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 天喜は仕事部屋へ戻り、無言でゲーミングチェアに身を沈めた。背中をあずけ、軋む音も気にせず、深く座り込む。

 なにが「いい奴」だ、馬鹿か。

 先ほどの宝瑠を思い出し、軽く悪態をついていた。

 別に嬉しくもなんともねぇし。……ああいうの、どうせだれにでも言ってんだろ。社交辞令みたいな感じで。

 自然とため息まで浮かんだ。

 自分の料理を褒められて、日葵への向き合い方まで認められて。普通の男なら、照れてでも「ありがとう」って言うんだろう。

 でも天喜は、あえて反応しなかった。というか、できなかった。

 宝瑠とともに暮らしてみて、日葵が予想以上に嬉しそうにするので、今さら出て行かれては困ると思っていた。

 なので、居心地のいい環境を作るためなら、多少の違和感は飲み込んだ。いい父親の顔で接するよう心がけていた。

 けれども、その結果としての評価が「ご飯がおいしい」「父親らしい」「いい奴だと思う」だ。

 どれもが他人事のようで、決定的に「男」としての自分は抜け落ちている。男として、完全にスルーされている。

 舌打ちこそつかなかったが、微妙にイラついている。自分で気づいてちょっと笑えてきた。

 わずかに眉間にしわを寄せたまま、パソコンの電源を入れた。

 冷たい光が画面を照らし、OSの起動画面がゆっくり立ち上がっていく。