会社に出勤し、自分のデスクに腰を下ろしたとき、ふと思い至った。

 しまった……。また食費のこと、話し合えてない。

 通勤鞄からスマホを取り出し、宝瑠は神妙な顔つきでホーム画面を見つめた。

 そうだ。昨日のお弁当と晩御飯のこと、それに今朝の朝ごはんについても、ちゃんと「ありがとう」って言えてなかった。

 ああ、と心中でうめき、いくらか顔をしかめた。

 本当は直接顔を見て言うのがマナーなんだけど、仕方ないか。

 宝瑠はラインアプリをタップし、天喜とのトーク画面を開いた。タタっと文字を打ち込んで送信する。

【ごめん、今朝言おうと思ってて言えてなかった。昨日のお弁当も晩御飯もありがとう。すごく美味しかった】

 短く息を吐き出し、デスクにスマホを置いた。ある意味、仕事より気を遣うかも……。

 早速今日の業務に取り掛からなければ。宝瑠は両手をキーボードの上に載せ、指先で弾いた。マウスを掴み、メールチェックから始めていると、デスクの上でスマホが震えた。

【別にいいけどそれぐらい】

 天喜からの返信だ。相変わらずレスが早い。

 ていうか、なんだろう、この返し。もしかして照れてる……とか?

 ふふっ、と自然と笑みが込み上げた。宝瑠は返信バーを指でなぞり、またメッセージを打ち込んだ。