「……ん。つーか、小野寺さんって口は堅いほう?」
「たぶん……あ、でも。Akiが顔出しNGのクリエイターだって理由は部下に言ってたかも。なんでも、女性にモテすぎるから顔出ししてないって」
「それはまぁ、半分以上冗談だし。小野寺さんもジョークと受け取ってたから別に構わないけど」
「……そっか」

 久々津は「別にいいよ」と続けた。「小野寺さんだけになら」。

「ありがとう」

 宝瑠は微笑み、カップを傾けた。残り半分以下になったコーヒーを静かに飲み干した。「あと」と久々津が言葉をついだ。

「“天喜”でいいよ」
「……え」
「クリエイター名で時々言うだろ、宝。Akiって」

 ……あ。

「そうだね、確かに」
「天喜でいい。苗字だと呼びにくいだろうし。名前の方がそれ(・・)っぽい」

 そう言って再び浮かべた彼の笑みを見つめる。“それ”の意味について考えた。

 ママっぽい(・・・・・)。おそらくはそういう意味だ。

「うん、わかった。じゃあこれからは天喜って呼ばせてもらう」

 久々津——もとい、天喜は目を伏せて頷き、マグカップをカウンターテーブルに置いた。冷蔵庫を開けて確認するように言った。

「宝、今日何時に出る?」
「……えっと。七時五十分ぐらい、かな?」
「じゃあ、一緒だな。帰りは?」
「たぶん……急な案件が入ってこなければ、定時で上がれると思う」