宝瑠は午後の業務に取り掛かり、区切りのいいところでカフェスペースに立ち寄った。
窓際にあるカウンターテーブルに腰を据え、手早く昼食をとることにした。久々津が作ってきてくれたお弁当だ。
だし巻き卵やかぼちゃコロッケ、ブロッコリーにプチトマト。色鮮やかなおかずが詰まっていて、量もちょうど良かった。
「ごちそうさまでした」と手を合わせ、コーヒーを淹れにサーバーまで歩く。
紙コップにブラックコーヒーが抽出されるのを待つ間、ぼうっとした表情で嘆息ばかりを繰り返した。
やがて桃子がやって来て、「せーんぱい」と声を掛けた。振り返って見ると、彼女は目をきらきらさせながら、テンション高く勝手に喋り始めた。
「聞いてくださいよぉ! 今日、運命的な出会い、しちゃいました」
「……え」
「さっき。昼休みが終わる前なんですけどね。あたしってば、エントランスでうっかりお財布落としちゃって。それを拾ってくれたイケメンがいたんです」
宝瑠は入ったばかりのコーヒーを見つめ、細く息を吹いた。「そうなんだ?」と相槌を打ちながら、頭の中では全く別のことを考えていた。桃子の話を上の空で聞いていた。
桃子は紙コップをひとつ取り、サーバーの中に入れた。カフェオレのボタンを押す。
「黒いフードにキャップで顔は隠れてたんですけど……目が合った瞬間、この人だ、って思ったんです」



