「いやいやいや、普通に考えたらそうだよな! なんだ、そっかー……。おかしいなぁとは思ったよ、俺も。あのAkiがいきなりイエスなんて言うはずないって」

 小野寺は目を伏せ、「はははっ」と力なく笑った。けれど、その瞳は笑っていなかった。「なんだ」と彼が寂しそうに呟いた。

「それならそうと、先に知らせておいてほしかった」

 苦笑ともため息ともつかない声が、会議室に落ちた。

 宝瑠は、小野寺の言葉を遮れなかった。
 口を開こうとするが、どんな言葉を選んでも言い訳になる気がして、結局何も言えなかった。

 そもそも久々津に娘がいることを、会社の人間に漏らすわけにはいかないのだ。最初にそう約束した。

 久々津との同居も普通じゃあり得ない“ママ契約”で成り立っている。日葵のことを言えない以上、同居の理由も明らかにできなかった。

「……俺さ、四ノ宮とは“ツーカー”だって……勝手に思ってた」

 そう言うと、小野寺は静かに立ち上がり、会議室を出て行った。