AI生成でママにされた私は、シングルの年下クズ男子に再構築されています。

 なに、今の……。

 つい、怪訝な瞳で振り返ってしまう。突然の意味不明な行動に虚をつかれ、しばらくの間、男の背中を見送っていた。

「今の……ゲームクリエイターのAkiですよね?」

 佐伯が小声で言った。宝瑠は思わず「えっ」と声を上げる。

 今のが……あの“Aki(アキ)”?

 ふと脳裏に「天才」「破天荒」「メディア嫌い」といった断片的なワードが浮かぶ。顔出しNGのゲームクリエイターであり、確か性別すらも不詳だったはずだ。Akiの作るものは斬新すぎて、若年層から高く評価されている。

 宝瑠も名前とその存在だけは、業務上のデータから把握していた。直接見るのは初めてだが、確かに、ただ者ではないオーラを感じ取った。

「今日、小野寺先輩がAkiと“最終交渉”だって言ってましたよ」

 佐伯が世間話のノリで言う。

「え。小野寺先輩って……コンテンツ推進課の、あの小野寺くんよね? 最終交渉ってまだ決まってなかったの?」

 宝瑠の問いに、佐伯が頷きながら相槌を打った。

「はい。Akiさん……あまり乗り気じゃなかったみたいで。企業案件、ほとんど断ってるらしいですよ。今日の話し合いで決まらなかったら、多分もう無理なんじゃないですかね」
「……へぇ」

 口ではそう返しながらも、内心では「嘘でしょ?」とショックを受けていた。例の案件をAkiに依頼すると小野寺が意気込んでいたのを知っているからだ。

 小野寺とは同期入社で、部署こそ違うが、共に中堅として会社を支える立場にある。

 宝瑠は先月のことを、ふと思い返した。

 クライアントである大手株式会社、山王(さんのう)食品から受注が入ったのだ。