「四ノ宮さんのこと。宝瑠って名前で呼ばれるの、嫌かと思って。俺なりにあだ名を付けた」
「だからって……なんで、宝?」
「うーん……、漢字に入ってるし。親にとっては、宝物って意味で名づけたんじゃないかなって。……俺はそう思ったから」

 胸の奥がじわりと熱くなる。

 母との思い出が無意識に呼び起こされ、宝瑠は自分の手元に視線を据えた。

 小学生のときも中学生になってからも、熱を出して寝込んだら、母は仕事の合間を縫って帰ってきてくれた。宝瑠の好物をスーパーで買ってきて、食べさせてくれた。よほどの病状じゃない限りは、仕事を休めなかったようで。そんな状況下でもできる限りのことをしてくれた。

 高校生のころに一番仲の良かった“あの子”が、引越しで離れ離れになったときも、ただ黙って宝瑠の話を聞いていてくれた。

 親としては当たり前すぎる行動だと思っていたけれど。母は、母なりの形で、愛情を示していたのかもしれない……。

 だからといって、これまでのことを全て水に流す気はないけれど。

 宝瑠はきゅっと下唇をかみ、俯いた。

「それじゃあ、今日からママとしてよろしくな、宝?」

 久々津に握手を求められ、宝瑠はこくりと頷いた。

「こちらこそ。よろしくお願いします」

 言いながら立ち上がり、彼のひと回り大きな手を掴んだ。

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