例によって、久々津の仕事部屋で話し合いをしていた。日葵にはリビングでアニメを見ながら遊ぶよう、声をかけた。

「はぁ? 忘れてるって……。設定上ってどういう意味?」
「日葵には“ママは記憶喪失だ”って言ってあんの。忘れてるだけで、本当のママだからなって」
「またあんたは……子供に、なんてこと吹き込んでるのよ?」
「別にいいんじゃん? 本当になるかもしれないし?」
「……え?」

 そう言ってふっと笑った彼に、心臓がドキリと脈を早めた。みなまで言わない彼にいちいち反応してしまう自分を情けなく思った。

「明日から仕事だっけ?」
「……そうよ。小野寺くんには」
「大丈夫。このあと、電話しておくから」

 笑みを浮かべて言う久々津を、ついジトっとした目で睨んでしまう。

「そんな目で見なくても。ちゃんと依頼は引き受けるって。小野寺さんとはツーカーなんだろ? あとで確認すりゃいいじゃん」
「……そうね。会社でまた聞いておく」

 宝瑠は不機嫌な顔を崩さず、久々津から目を背けた。

「明日弁当は? 俺作った方がいい?」
「えっ、いいわよ、そんなの。仕事の都合によって、食べたり食べなかったりするから」
「ふぅん……(たから)は仕事一筋なんだなー」

 上から降ってきた声に反応し、顔を上げる。見上げた先で、椅子に座った久々津が「うん?」と首を傾げた。

「なに、宝って……?」