告白されたわけでもないのに胸が高鳴って、デートに誘われたわけでもないのに心が踊る。
胸がぎゅっと締め付けられる程切なくなったり、喧嘩したわけでもないのにはらわたが煮えくり返って、振られたわけでもないのに悲しみに打ちひしがれる。
そうしてまた、優しい言葉に胸がキュンとなる。
片瀬莉央はそんな恋をしていた。けれど、それは叶うことのない切ない恋。
出会いは三ヶ月前だった。
一年程前からネット小説を読むことが趣味のようになっていた莉央は、その日も仕事を終えて帰宅すると、小説を読み漁っていた。決まって恋愛小説だ。
そして、出会ってしまった。
物語の世界に引き込まれて感情移入する――そんな経験はよくあることだろう。けれど、莉央の場合はそれだけでは収まらなかった。作品に宿る作者の感性そのものに惚れたのだ。
文章から滲み出る繊細な感受性、言葉選び、視点の置き方。自分の心の奥底にある誰にも触れられたことがない部分に触れられたような感覚に、心が震えた。
それを一般的には「ファン」と呼ぶのかもしれないが、莉央の想いはもっと深く、もっと切実だった。
海山風に恋愛感情を抱いたのだ。
海山風は、彼のペンネームだ。
彼をもっと深く知りたいという想いで、来る日も来る日も彼の作品を読んだ。短編から長編、ジャンルも様々な彼の作品数は二百を優に超えていて、執筆にかなりの年月を費やしていることが窺えた。
まるで恋人にでも会いに行くかのように、毎晩彼の作品に触れ、気付けば海山風沼にどっぷりハマっていた。
彼の作品を読み終えるといつも同じ感情が溢れだす。読めば読むほど、その想いは一層強くなっていった。
やがてその感情を抑えきれなくなった莉央は、彼にメッセージを送った。
『あなたのヒロインになりたいです』
当然、彼からの返信はなかった。
胸がぎゅっと締め付けられる程切なくなったり、喧嘩したわけでもないのにはらわたが煮えくり返って、振られたわけでもないのに悲しみに打ちひしがれる。
そうしてまた、優しい言葉に胸がキュンとなる。
片瀬莉央はそんな恋をしていた。けれど、それは叶うことのない切ない恋。
出会いは三ヶ月前だった。
一年程前からネット小説を読むことが趣味のようになっていた莉央は、その日も仕事を終えて帰宅すると、小説を読み漁っていた。決まって恋愛小説だ。
そして、出会ってしまった。
物語の世界に引き込まれて感情移入する――そんな経験はよくあることだろう。けれど、莉央の場合はそれだけでは収まらなかった。作品に宿る作者の感性そのものに惚れたのだ。
文章から滲み出る繊細な感受性、言葉選び、視点の置き方。自分の心の奥底にある誰にも触れられたことがない部分に触れられたような感覚に、心が震えた。
それを一般的には「ファン」と呼ぶのかもしれないが、莉央の想いはもっと深く、もっと切実だった。
海山風に恋愛感情を抱いたのだ。
海山風は、彼のペンネームだ。
彼をもっと深く知りたいという想いで、来る日も来る日も彼の作品を読んだ。短編から長編、ジャンルも様々な彼の作品数は二百を優に超えていて、執筆にかなりの年月を費やしていることが窺えた。
まるで恋人にでも会いに行くかのように、毎晩彼の作品に触れ、気付けば海山風沼にどっぷりハマっていた。
彼の作品を読み終えるといつも同じ感情が溢れだす。読めば読むほど、その想いは一層強くなっていった。
やがてその感情を抑えきれなくなった莉央は、彼にメッセージを送った。
『あなたのヒロインになりたいです』
当然、彼からの返信はなかった。



